14.5

 自動販売機のボタンを押すと、取り出し口からベプシが出てきた。買ったばかりのベプシを飲んで、ほっと一息つく。
 アイツが自主練習を手伝うようになって、一ヶ月が経った。一時は健気に練習に付き合う彼女にどうやって接すればいいのか迷った時期もあったし、口を利けない時期もあった。
 どうせすぐに満足して手伝いをやめるだろうと思っていた。だが、アイツは本当に荒北の成長を願っているようだ。この前見た練習日誌がなによりもそれを示している。
 ……本当によくやるよ。思い、ベプシを一口飲む。
 今まで一人でやってきたことに他者が突然介入すること。アイツが練習を手伝うと言った時は正直嫌な気持ちもあったが、すんなりと受け入れることができた。
 なぜアイツを受け入れられるのだろう。考えて一つの結論にたどり着く。……そうだ。中学時代の野球をやっていた時の経験がそうさせているのだ。
 中学の頃、部活でバッテリーの南雲と上を目指していた。

「ねぇ、靖友。ここをこうしたらもっといい球が投げられるんじゃないかな」

 初めて会った時は弱そうなヤツだなと思ったが、意外に周りのことをよく見ている鋭いヤツだった。コイツとなら、上に行けると思っていて――

 壁に拳を打ち付ける。
 なぜ。なぜ今になって思い出す。自転車に乗るようになってから過去を振り返ることなどなかったのに――!!
 冷たい感触に我に返る。危うくベプシを零すところだった。残りを一気に飲み干して、ゴミ箱に放り投げる。
 部室に戻ろうとして、自販機の前に戻る。
 せっかくだ。たまにはアイツにジュースの一本ぐらいおごってやろう。
 ……アイツ、なにが好きなんだっけ。いちごオレにオレンジジュースに、色んな飲料のボタンに荒北の手がさまよう。迷った末にベプシのボタンを押した。
 ベプシを片手に部室に向かって歩く。歩いている途中、ふと夜空を仰いだ。
 今日の空は澄んでいて星々がよく見える。……そういえば、合宿三日目の時も星空がきれいな夜だった。