真波くんは思わせぶり

 放課後、部活をサボっている真波くんを捜しに行くと、学校の近くにある坂で彼をようやく見つけた。

「真波くーん!」

 彼の名前を呼ぼうとした時、他校の女の子と話していることに気がついた。

「真波くん、メアド交換しよ?」
「ごめーん、今日携帯家に置いてきちゃったんだぁ」
「じゃあ、連絡先書いたメモ渡すから、後で連絡ちょうだい。それじゃあ」

 顔を赤らめた女の子がそそくさと帰っていく。その子の顔を一瞬だけ見た時自分の目を疑った。あれ、あの子って……!?

「あ、さん。今知らない人から連絡先教えてもらったんですけどさんもどうです? メール送ってみます?」
「送らない! 第一、私から突然メールを送ったら絶対にびっくりするって! ……じゃなくて、さっきの姫宮琴葉さんだったよね!? たしか、あの子はアイドルグループの……」

 姫宮琴葉はたしか、今テレビで話題沸騰中の何十人もいるアイドルグループの中で結構人気のある子だったはずだ。

「ファンだったんですか?」
「違うよ!」

 真波くんのボケに付き合っている場合じゃない。姫宮琴葉は最近ネットで、恋愛禁止のアイドルグループにいるにもかかわらず、自分に人気があるのをいいことに色んな男の人と付き合っているといううわさが流れている、いわゆる肉食系女子だ。まさか真波くんのところに来るだなんて思わなかった……!

「さっき、好きです、付き合ってくださいって告白されたんですよね。その人のこと全然知らなかったんでその時は断っちゃったんですけど」

 普段テレビは見ないのだろうか。真波くんは何にも知らないそぶりで頭をかいて苦笑している。

「仮にその人のことを知っていたとしても、オレ毎日登りに行っちゃうんで。オレと付き合ってもあんまりいいことないと思うんですよねぇ。気がついたら自然消滅しちゃうかも」
「真波くんは知らないかもしれないけど、あの子テレビに出てて結構人気があるよ? こんなチャンスめったにないんじゃないかな」

 なにを言っているのだろう、私は。別に真波くんと姫宮琴葉がくっついてほしいわけじゃないけど……真波くんが本当に無欲なのか確かめられずにはいられない。
 こんなことを言った私に、真波くんはきょとんとした顔をしている。

「すごい人だったら付き合った方がいいものなんですか?」
「それは違うけれど……! 私、姫宮さんみたいにかわいくないし、ああいう人の考えることはあんまりわからないけれど、お付き合いって相手のことが本当に好きになった人同士でするべきことだと思う! この先その人と結婚するとはかぎらないかもしれないけど、それでもこれから当分の間は一緒に過ごすことになるんだし……。それを簡単にとっかえひっかえするのってなんだか悲しくなる。みんな色んな考えがあるんだろうけれど、真波くんには心の底から好きになった人と恋人になってほしいな……」

 って、本当になにを言っているのだろう、私は。私だって真波くんのことが好きなのに。これじゃあまるで誰かとくっつけようとしているみたいじゃないか。慌てて訂正しようとすると、真波くんが笑っていることに気がついた。

「なんだか告白みたいですね。今のセリフ、なんだかドキドキしちゃった」
「えっ!?」
「あの子に好きって言われた時は特に何も感じなかったのに……なんでだろうね?」
「そ、そんなの知らないっ!」

 きっと真波くんは私をからかおうとしてそんなことを言っているのだ。そんなことはわかっているのに顔の火照りが収まらない……。

「オレもさんの彼氏はちゃんとした人がいいなぁ。あと、さんはかわいいですよ?」
「そんなこと言っても騙されないんだから。姫宮さんよりは全然だし……」
「そうかな? さんはなんていうのかなぁ。素直で、表情がころころ変わっておもしろいっていうか」
「な、なにそれ!?」
「とにかくオレはさんの方が好きですよ」

 にこにこと笑いながら甘い言葉を連発する真波くん。そんなことを言われたら絶対に勘違いするに決まっている……。

「真波ー!」
「あ、荒北さんだ。じゃあさん、オレこれから登りに行くんで」

 さわやかな笑顔で自転車に乗った真波くんが去っていく。

「おい、! なに不思議チャン見逃してんだ!」
「あっ」

 荒北くんに怒鳴られてようやく今の自分の使命を思い出した私は、もう一度真波くんを捜しに行ったのだった……。