2.5
家に帰った後、自分の部屋でベッドに寝転がったまま携帯を開く。
アドレス帳には今日交換したばかりの荒北くんの連絡先が表示されている。
連絡先を交換したはいいものの、よくよく考えたら男の子とメールのやりとりをしたことがなくて、なんてメールしようか迷ってしまう。
落ち着け、私。相手は荒北くんだ。いつも話す時みたいにメールの内容を入力すればいい。
――遊園地だけど、今度の土曜日でいい?
悩んだ末に入力したのはシンプルな内容。長すぎると笑われそうだし、荒北くん相手にはこのくらいがちょうどいいのかもしれない。
メールを送信しようとすると、突然着信画面に切り替わった。電話の相手は荒北くんだ。
こんな時に電話かけてくるなんて心臓に悪いなぁ。かといって居留守をするわけにもいかず、充分に心の準備ができていないまま私は電話に出ることにした。
『もしもし』
電話に出た瞬間、受話口から聞こえてきたのは荒北くんの不機嫌そうな声。
そういえば荒北くんは寮なんだっけ。寮にある自分の部屋から電話をかける荒北くんの姿が思い浮かぶ。
「どうしたの、突然」
『なかなか連絡来ねーからこっちから電話かけたんだよ』
「今、メール送るところだったんだけど……」
『おせーよ。いつまで待たせんだ』
「そんなこと言われたって」
まさか、メールを送る文面に悩んでいたなんて言えるわけがない。
言い訳に悩んでいると、荒北くんはそれ以上追求せずに本題に入った。
『で、いつ空いてんだ』
「土曜日なら空いてるけど……」
『オレもだ。じゃあ土曜日、十時に遊園地の前に集合な』
用件が終わるとぷつりと電話が切れてしまった。男の子と電話するのって初めてなんだけど、こういうものなのだろうか。
遊園地に行く日が決まったらなんだかそわそわしてきた。今度の土曜日、荒北くんとふたりっきりで遊園地。なんだかデートみたいだ。
当日はどんな服を着ていこう。荒北くんは絶対調べないだろうし、遊園地にどんなアトラクションがあるのか事前にネットで調べておかなきゃ。
……これはデートじゃないんだから。遊園地に行く準備をしている間、私は何度も自分にそう言い聞かせた。