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「どこか気になるお店はあるか?」
「あの店が気になるっショ」

 巻島くんが指で示したのは射的屋さん。

「おぉ! 射的屋か! 寄ってみようではないか!」

 射的屋に行くと、棚の上にはキャラメルやクッキーの箱、ティディベアやアクセサリーなど様々な景品が並んでいる。

「一回百円で三発撃てるのだな。三人で一回やってみるか! まずは順番を決めるぞ」

 ジャンケンの結果、一番は巻島くん、二番は私、三番は東堂くんになった。巻島くんが射的屋のおじさんから銃とコルク弾三個を受け取る。

「巻島くんはなに狙うの?」
「んー、田所っちと金城のお土産にあのラスクの箱でも狙うっショ」

 巻島くんが銃口にコルクをはめ、銃を構える。
 慎重に狙いを定めて引き金を引く。コルクが音を立てて飛び出し、ラスクの箱の左上に当たる。箱が微動した。

「……む。意外に重いっショ」
「頑張れ巻島くん」
「そうだ巻ちゃん! あと二発打てばきっと落ちる!」

 巻島くんが再び銃を構え、撃つ。今度は間を開けず、二発のコルク弾が箱の左上に連続して当たる。箱は大きく回転したが、棚から落ちなかった。

「残念。田所っちたちのお土産はなしだな」

 笑って肩をすくめる巻島くん。

「どんまい巻ちゃん。次はちゃんの番だが、なにを狙う?」
「私はさっきのラスクを狙うよ」

 おじさんにお金を渡して銃を受け取る。

「オレのことは気にしなくていいっショ。どうせ野郎の土産だし」
「ううん。あともう少しで倒れそうだし、私がプレゼントするよ」

 コルクを銃口に詰めて、狙いを定める。
 引き金を引くと、コルクが一直線に飛んだ。

「あっ、惜しい!」

 声を上げたのは巻島くん。コルクは箱をかすめ、空中を飛んで壁に当たりはじかれて落ちた。

「射的、実は初めてなんだけどなかなか当たらないね。気を取り直してもう一発」

 銃口にコルクを詰めようとすると、東堂くんが近づいてきた。

「山神様が射的のコツを伝授してあげよう。まず、コルク弾はできるだけ奥に押し込むのだ」

 東堂くんに言われたとおり、コルク弾を奥の方に押し込んでみる。

「それで銃を構えてみてくれるか?」

 銃を構えると、東堂くんの体が私の背中に触れる。

「こうやって腕を伸ばして少しでも景品に近づくように。ふらつかないように、腕のここで銃を支えるのだ」

 東堂くんの手が触れるままに腕や手の位置が変わる。耳元でささやく声にくすぐったさを感じていると、東堂くんの体が離れた。

「この体勢で間を開けずに二発当てると落ちるはずだ。さ、やってみるといい」

 深呼吸して気持ちを落ち着ける。ラスクの箱の左上に意識を向け、銃の引き金を引く。
 コルクが音を立てて銃口から飛び出す。すぐさま二発目のコルクを装填して、さっきとぴったり同じ位置に銃を構え引き金を引く。
 二発目の弾で箱は大きく回転し、ついに棚から落ちた。

「やった!」

 笑いながら後ろに振り返ると東堂くんたちが片手を上げる。両手を上げてハイタッチをした。

「おめでとうお嬢ちゃん。はい、これ」
「ありがとうございます!」

 射的のおじさんからラスクを受け取って、そのまま巻島くんに渡す。

「約束どおり、巻島くんにあげるね」
「サンキュ。田所っちたちには箱学のマネージャーからのプレゼントだって言っとくっショ」

 巻島くんがにっこりと笑う。喜んでもらえてよかった。

「じゃ、次はオレの番だな! 特に欲しい景品はないのだが……ちゃんはなにか欲しいものはあるか?」
「そうだね……」

 棚の上にある景品を順に見ていく。さっきは気づかなかったけれど、愛らしい猫のキーホルダーが目についた。

「あの猫のキーホルダーが欲しいかも」
「よし、あれだな」

 東堂くんは銃を構えると、慎重に狙いを定める間もなく引き金を引く。コルク弾はキーホルダーの上部に当たり、棚から落ちた。

「うまい……!」
「わっはっは! トークも切れる上に射的もできる! お祭り男東堂尽八とはオレのことだ!」

 東堂くんが次に狙いを定めるのはクッキーの箱。一発で棚から落ちて、すぐにコルク弾を装填した東堂くんはキャラメルの箱を落とした。

「お兄ちゃん強いねぇ! よく見るとイケメンじゃないか! これもサービスしよう」

 おじさんが棚に並んでいた二種類のお菓子を手に取って、それと先ほど落ちた景品を袋に詰めて東堂くんに手渡す。

「ありがとうおじさん! おかげで楽しめたよ!」
「いやぁこっちこそ。見物客が増えたし、商売繁盛しそうだよ。来年もまた来ておくれ」

 気がつくと後ろにギャラリーができている。

「フッ。これも美形の宿命……」
「なに言ってるっショ。早くズラかろうぜ」

 顔を真っ赤にした巻島くんが東堂くんの服をつかむ。
 静かな場所に移動して、射的の景品が入った袋を開けた。

「これはちゃんにあげよう」
「ありがとう」

 東堂くんから猫のキーホルダーとお菓子を受け取る。

「で、これが巻ちゃんの分」
「サンキュー。でも東堂が射的がうまいなんて驚いたっショ」
「ふっふっふ。実は去年うちの旅館が射的で出店していてな。その時に射的のコツを覚えたのだよ」

 胸を張り自慢気に主張する東堂くん。たしか、前に書道も料理も得意だって聞いたことがある。もしかしたら自転車部の中で一番器用な人なのかもしれない。
 もらった猫のキーホルダーを見る。シンプルでかわいらしい黒猫のキーホルダー。家の鍵にでもつけようかな。