22

「他に行きたい所はあるか?」
「私、お面屋見たいな」

 すれ違う人でたまにお面をつけている人を見かけて、つられて私もお面が欲しくなってしまった。三人でお面屋の前に移動する。
 お面屋の棒には色んな種類のお面がかけられていた。子どもの頃にアニメで見た懐かしいキャラクターや、最近よくテレビに出てくるキャラのお面。ひょっとこやよくわからないキャラのお面まである。

「東堂にはこれがぴったりっショ」

 巻島くんの指さした先を見ると、忍者のお面。東堂くんの二つ名である「森の忍者」とかけているのだろう。私はくすっと吹き出し、東堂くんは「いやいや!」と力強く否定した。

「巻ちゃん! オレは森の忍者などではない! 眠れる森のスリーピング・ビューティーッ!」
「その名前、長くて覚えにくいっショ」
ちゃんも笑うでないっ!」
「だって……あはははは!」
、なにか欲しいお面はあるか? さっきのラスクの礼だ、オレがおごるっショ」
「えっ、でも……」
「いいからいいから」
「じゃあ……」

 お面を見てみるものの、どれにしようか迷う。

「巻島くんお勧めのお面ってある?」
「オレのお勧め? えぇっと……」

 巻島くんが、ひとつのお面を指さす。

「……このお面はヤギなのか、アルパカなのか……」

 私が言おうとした台詞を東堂くんが言った。東堂くんの言うとおり、ヤギなのかアルパカなのかどっちか判別つかない微妙なお面。個性的なデザイナーが作ったのだろうか。

「これにしようかな」

 巻島くんが勧めてくれたということもあり、他のお面屋では絶対に見かけないデザイン。
 なんとも言えないお面だけど、これが無性に欲しくなった。

「んじゃ、これくれっショ」

 巻島くんが長財布の中から硬貨を取り出し、お金と引き換えにお面を受け取る。

「プレゼントっショ」
「ありがとう、巻島くん」

 もらったお面を早速顔に着けてみる。

「どう?」
「微妙だ。実に微妙だ!」
「いいなぁそのお面。オレも買っちゃおうかな」

 聞き慣れない声が聞こえた。東堂くんと巻島くんの目が瞬き、「今言ったのはオレじゃないぞ・っショ」と首を振る。
 狭い視界で辺りを見回すと、新開くんにそっくりな黒髪の男の子。

「悠人くんっ!」
「お久しぶりです、さん」

 お面を右上にずらして改めて男の子を見る。二年ぶりに会ったけれど、新開くんとそっくりな顔ですぐにわかった。
 新開悠人くん。新開くんの三個下の弟だ。

「よ、みんな。人いっぱい来てるから会えるかなぁって思ってたんだけど、ここで会えてよかった」

 悠人くんの後ろには新開くん。両手にはたくさんのチョコバナナを持っている。

「新開! いつ祭りに来たのだ!?」
「ついさっき来たばかりだよ。家の用事が終わってさ、悠人と一緒にお祭りに来たんだ。その後ろの人がうわさの巻島くん?」
「巻島裕介だ。よろしくっショ」
「裕介くんね。オレは新開隼人、よろしく。……そういえば、さっき寿一と靖友に会ったんだ」

 後ろを振り返った新開くんの視線の先には、りんごあめの屋台がある。そこでたくさんのりんごあめを手に持った福富くんと、それをあきれた顔をして見ている荒北くんがいた。

「おーいトミー! 荒北ー!」

 東堂くんが大声で呼ぶと、福富くんたちが走ってくる。

「東堂に電話出ろよ! せっかくレース帰りに寄ってやったのに電話出ねェし」

 荒北くんに怒鳴られる。携帯電話を取り出して画面を確認すると、荒北くんからの着信があったことにいまさら気がつく。

「いやぁ……全く気づかなかった」

 わっはっはと笑う東堂くん。福富くんが空を見上げる。

「なにか音がするな」
「ん? なんだなんだ?」

 いくつもの火の玉が上空に向かって打ち上がり、爆音と共に弾け散る。色とりどりの花ができるたびに周囲の人たちの歓声が上がる。

「花火だ……」
「きれいだな」

 誰ともなしにつぶやいた言葉を東堂くんが拾った。
 東堂くんや巻島くん、新開くんたちやお面屋のおじさん、周りの人たちや屋台の人までもが打ち上げられた花火に見入っている。長い間空を仰ぎ、打ち上がる花火に感嘆の声を漏らした。